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(8)読まずに返送した被告の手紙「二度と受け取らない」

加藤智大(ともひろ)被告(27)の運転するトラックにはねとばされ、死亡した中村勝彦さん=当時(74)=の長男の男性に対する証人尋問。検察側の尋問の最後で男性は、「法廷に引きずりだされ、傷口に塩を塗られている思いだ」と、自身の供述調書を不同意にした弁護側を厳しく批判した。その弁護側の反対尋問が始まる。口ひげを生やした男性弁護士が立ち上がった。

弁護人「数点だけ、事実関係だけ質問させてください。トラックが走行していた車線は、片側何車線だったと記憶していますか」

証人「広い片側1車線だったと記憶しています」

弁護人「駐車車両があったということですが、路肩にあったのですね?」

証人「…と思います」

証人は、時折、鋭い視線を弁護士に送りながらも、感情を押し殺したような声で、静かに答えていく。

弁護人「駐車車両は、どれくらいありましたか」

証人「4、5台…。3、4台ですかね」

弁護人「先ほど、トラックは駐車車両ないし、前方の車を追い越すような暴走だったと証言されましたが、前の走行車両をトラックが追い越した場面はありましたか」

証人「ありました」

弁護人「何台くらい?」

証人「おそらく1、2台ですね」

この後も弁護人は、車両の位置関係について細かい質問を重ねていったが、明瞭(めいりょう)な記憶は呼び起こせない。証人は、いらだったような声で答えた。

証人「2年前のパニックになったときのことを『正確に』といわれても、なかなか難しいですね」

弁護人は、トラックの運転席にいた加藤被告の状況に質問を移した。

弁護人「運転席の男性が奇声を発したということですが、声は聞こえましたか」

証人「聞こえなかったですね」

弁護人「叫んでいるように見えたと?」

証人「はい」

弁護人「小躍りしているように見えたということですが?」

証人「ハンドルの上で、上半身がバウンドしているように見えたと記憶しています」

弁護人「表情などは見えましたか」

証人「気を失っているとか、正常な状態でない、というか、病的な何かが(運転席の男に)起きたのではない、ということは理解しましたが、それ以上のことは分かりません」

弁護人「手紙を私どもにお返しいただきましたが、今後も二度と、受け取るつもりはありませんか」

証人「もちろんです」

男性の即答で尋問は終わった。見取り図への署名が済むと、村山浩昭裁判長が「長時間お疲れさまでした」と男性をねぎらった。男性は裁判官と検察官に頭を下げ、足早に法廷を去っていった。加藤被告や弁護側には目を向けなかった。

裁判長「では、本日の証拠調べは終了ですが、検察官と弁護人から書面をいただいています…」

検察官提出の書面は、今後の期日で予定されていた証人尋問で、尋問を行うはずだった被害者の1人が、事情により出廷できなくなったという内容だ。弁護側も異議は唱えず、村山裁判長はこの証人の採用決定を取り消した。

一方、弁護側の書面は、採用決定されていた弁護側の証人1人を取り消すとともに、新たに1人を証人として採用するよう求める内容。検察側は取り消しは受け入れたが、新規の採用は「立証趣旨も異なり、不必要」と主張した。最終的に、村山裁判長は取り消し、採用ともに認めた。

裁判長「それでは、本日は閉廷いたします」

村山裁判長が閉廷を告げた。加藤被告は係官に連れられ、傍聴席に一礼し、退廷していった。

次回公判は5月24日午前10時から、検察官申請の証人3人に対する尋問が行われる予定だ。

⇒第9回公判