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(11)「真っ赤な血の海があって…」声を震わせる証人

目撃者として出廷した証人の男性に対する検察側の証人尋問が続く。加藤智大(ともひろ)被告(27)がトラックで突っ込んだ後、ナイフを持った加藤被告と至近距離で向かい合ったという証人。生々しい証言に傍聴人たちは息をのむ。

検察官「ナイフを持った者が移動した後、どういうことがありましたか」

「ナイフを持った者」は加藤被告のことだが、事件当時、証人は加藤被告と認識していなかったことに配慮し、検察官はあえて「ナイフを持った者」「ナイフの人物」などと表現しているようだ。

証人「細かくジャンプしながら、南の方へ向かっていきました。直後に私の隣にいた人が『刺された、刺された』と何度もいっていました」

ここで証人の男性は検察官に促され、「刺された」と話していた被害者の位置を「5」と書き込む。その地図が法廷の大型モニターに映し出される。証人がそのとき、いた場所のすぐ近くだ。

証人「その人はベルトの上の部分を抑えながら『刺された』と何度もいっていました。だけど、私が見たときは血が出ていなくて、普通に会話していたので、『大丈夫ですか、座った方がいいですよ』と声をかけました」

検察官「『5』の人はあなたが勧めた通り座りましたか」

証人「何回か言ったら、座りかけたのですが、そのとき、携帯電話の販促の方(販売促進PR要員)だと思いますが、緑のジャンパーを着た人が布を持ってきたので、私は『5』の人を預け、ナイフの人物を追いかけていきました」

検察官「あなたが見た(ナイフの)人物は声を上げていましたか」

証人「全然上げていませんでした」

加藤被告は相変わらず身動きをせずに検察官と証人の男性のやり取りを聞いている。

検察官「あなたは『5』の人の処置を託してどうしましたか」

証人「まず『ナイフをどうにかしなければならない。人がたくさんいる駅に行ったら大変なことになる』と思いました。『ナイフだったら商店街に置いてある液晶テレビとかで防ぐこともできる』と思い、身を守るものを探しながら、(ナイフの者を追って)中央通りの真ん中を歩いて南の方へ向かいました」

検察官「その後、あなたはナイフの者を見ましたか」

証人「見ました」

検察官「再びナイフの人物を見た位置を、『う』の字をまるで囲って書き込んでください」

証人の男性は、交差点から中央通りを少し南へ行った歩道の部分に赤いボールペンで書き示した。さらに自分がいた位置にもマークを付けた。その位置は、ナイフの人物が立っている位置のすぐ近くだ。

検察官「そのとき、ナイフの人物は何をしていましたか」

証人「ナイフをかざしながら警察官と闘っていました。警察官は至近距離で向き合いながら、黒い警棒で対峙(たいじ)していました。(ナイフと警棒が当たる)『カンカンカンカン』という音が何度もしました」

検察官「あなたは(警棒を持っている人が)警察官だと分かりましたか」

証人「服装で分かりました」

検察官「ナイフの人物は警察官に何をしようとしていましたか」

証人「警察官を刺そうとしたり、切り付けようとしたりしているように見えました」

検察官「時間的にはどのくらい見ていましたか」

証人「1、2秒…5秒くらいの感じでした」

検察官「現場では、あなたは至近距離でナイフの人物を2回見たことになりますね」

証人「はい、そうです」

証人は、秋葉原の交差点内で加藤被告と対峙したときと、加藤被告が警察官と格闘している様子を見たときの合わせて2回、至近距離で見たことになる。

検察官「あなたはナイフの人物を(再び)見れば分かりますか」

証人「分かります」

検察官「法廷にいる被告がナイフの人物に間違いありませんか」

証人の男性は被告人席に座っている加藤被告をしばらく見つめる。

証人「間違いないと思います…」

検察官「あなたはナイフの人物を当日も(警視庁の)万世橋署で見ましたか」

証人「はい」

検察官「そのときの記憶で、(万世橋署で)見た人物とナイフの人物は同じでしたか」

証人「同じでした」

証人は、事件後に万世橋署に行き、みたび、逮捕された加藤被告を見たようだ。

検察官「話を戻します。あなたは警察官とナイフの人物が闘っている姿を見た後、どうしましたか」

証人「被害がこれ以上は広がらないだろうと思い、交差点に戻ろうとそちらに向かいました。そうしたら途中で中央通りの横側に人が集まっていました。そこからは『(救命のための)AED(自動体外式除細動器)を持ってこい』『布で覆え』という声が聞こえてきました。そちらに行ったら真っ赤な血の海があって…」

はっきりした声で検察官の質問に答え続けていた証人の男性だったが、急に声を震わせた。

⇒(12)「あれは『戦場』そのものだった」…加藤被告は硬い表情のまま