第9回公判(2012.1.24)

 

(1)1千万円以上入手した男性とホテル宿泊前夜には別の男性と…

木嶋被告

 首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけ男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた、木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の第9回公判(大熊一之裁判長)が24日、さいたま地裁で開かれた。

 大雪の影響とみられる交通機関の乱れで、裁判員の到着が遅れ、公判開始時間が予定の午前10時から午後1時に延期された。

 第9回公判からは、主に東京都青梅市の会社員、寺田隆夫さん=当時(53)=の殺害事件についての審理が進められる。

 木嶋被告が問われている罪は、寺田さんら3人の殺人事件に加え、詐欺や詐欺未遂、窃盗など計10事件に上る。

 一連の事件は、婚活サイトを利用したという点が共通している。結婚願望の強い男性をサイトで物色して近づき、現金をだまし取ったり、詐欺が発覚して現金返済を迫られるなどすると殺害したとされる。

 初公判から23日までの第8回公判では、主に東京都千代田区の会社員、大出嘉之さん=当時(41)=の殺害事件の審理が行われた。

 公判で検察側は、木嶋被告と大出さんとの生々しいメールのやりとりを紹介した。

 「避妊しなくても構わない」

 「できちゃった婚もいいかもしれませんね、ムフ」

 メールのやりとりには肉体関係をちらつかせる場面もあった。検察側はこうしたメールのやりとりから男心を操って現金を要求していた実態を浮き彫りにさせる構えを見せた。

 一方の弁護側は、疑わしい事件が重なったから有罪とするのは許されないと主張。検察側の立証に徹底して疑問を差し挟む戦術を続けている。

 第9回公判の寺田さん殺害事件でも、検察側は木嶋被告と寺田さんとのメールのやりとりを紹介するとみられる。

 起訴状によると、木嶋被告は平成21年1月、東京都青梅市のマンション室内で、こんろ6つに入れた練炭を燃やし、睡眠状態に陥らせた交際相手の寺田さんを殺害したとされる。

 初公判の罪状認否で木嶋被告は「私は、寺田さんを殺害していません」と起訴事実を否認。弁護側も無罪を主張した。

 寺田さんの遺体は21年2月4日、発見された。扱った警察官は携帯電話の履歴から木嶋被告に連絡して事情を尋ねた。その際、木嶋被告は「すでに別れた」「(寺田さんが)『結婚できないなら死にたい』と言っていた」と説明したとされる。

 警察は木嶋被告の説明などから自殺と判断。司法解剖は行われなかった。巧妙に自殺を装い、一度は警察も欺く構図を築いたとされる寺田さん殺害事件。

 司法解剖が行われず最も物証が乏しい事件でもあり、裁判員は難しい判断を強いられる。公判がいよいよ始まった。

裁判長「それでは開廷します」

 初公判では午前と午後で洋服を一新させるという異例の“お色直し”をみせたほか、リップグロスまで引き、傍聴人の注目を集めた木嶋被告。この日は、青のシャツに紺のカーディガン姿だ。グロスは引いていない。弁護人の横の席に着き、裁判長をじっと見据えている。

検察官「早速ですが、始めさせていただきます」

 検察官は事前に配った時系列表を参考にするように裁判員に促し、説明を始めた。

検察官「すべての事件は経済的に(木嶋被告が)困窮したことにあります。結婚を前提に次々と多額の現金をだまし取り、関係を断ち切るために3人の男性を殺害しました。これから審理する寺田さんの殺害事件についても、(こうした構図が)当てはまります」

 検察官は、こう前置きした後、どのような過程で立証していくのかの説明に入った。

検察官「まず前提とした経済状況について立証していきます。続いて、どのように男性と知り合い、現金を入手したのか。そして何に現金を使ったのか…」

 検察官は立証のポイントを挙げていく。木嶋被告は、検察官をにらむように見据えながら、じっと公判に耳を傾ける。

検察官「平成21年1月初め、結婚を約束しました。これは、寺田さんのお姉さんの証言から立証します」

検察官「1月10、11日にホテルに一緒に宿泊しています。これはホテルの記録などから証明します」

 木嶋被告は、婚活サイトで知り合った別の男性と同時期に交際。この男性からはホテルで睡眠薬を飲ませ、現金5万円を盗んだとされ、窃盗罪でも起訴されている。

検察官「男性に睡眠薬を飲ませた窃盗につきまいては、1月10日、寺田さんとホテルに宿泊した前夜のことです」

検察官「1月下旬だけで寺田さんから1千万円以上を入手。そして、1月30日に、同居するという名目で部屋に出入りするようになりました」

 検察官は、立証の趣旨を説明し、寺田さんに関する第2次冒頭陳述を終えた。

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