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(1)友達は「ゴフッ、ゴフッと口から血が流れ」……暴走トラックにはねられた男性、証言台へ

東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた元派遣社員、加藤智大被告(27)の第4回公判が9日午後1時30分、東京地裁(村山浩昭裁判長)で始まった。

前回までは目撃者による証人尋問だったが、今回からは、実際に事件に巻き込まれた被害者が証言台に立ち、当時の様子を証言するという。そのうちの1人は車いすで出廷する予定だ。目撃者からは「戦場のようだった」という表現も出てきた事件当時の現場。被害者はどのように事件の恐怖を語るのだろうか。

午後1時29分、向かって左側の扉から加藤被告が入廷してきた。いつもと同じ黒いスーツに白いワイシャツ姿。2月5日に行われた第3回公判から1カ月。短く刈り込んでいた髪の毛は、だいぶ伸び、ハリネズミのように立っている。

傍聴席近くに来ると、被害者や遺族が座っている方に向けて頭を下げ、さらに弁護人の前に置かれた長いすのところで、村山裁判長と2人の裁判官にも軽く一礼した。午後1時30分、公判の始まった。

裁判長「それでは始めます」

村山裁判長は、まず今後尋問が予定されているIさんの配偶者から遮蔽(しゃへい)措置の要請が出されていることを告げ、検察官と弁護人の了承を取った。

裁判長「本日はCさんについての書証の同意部分を調べた上で、尋問を行うことになっています」

この日最初の証人尋問はCさんだった。Cさんは友達のAさん、Bさん、川口隆裕さん=当時(19)=とともに秋葉原を訪れた際、加藤被告が運転するトラックにはねられ、腰に打撲を負った被害者だ。激しくトラックにはねとばされたAさんと川口さんは、その後命を落としている。

まず、弁護側が同意したCさんの供述調書を読み上げるために、向かって右手に座っていた検察官の1人が立ち上がった。

検察官「甲17号証は、Cさんの供述調書です。では読み上げます」

「平成20年6月8日は、私のこれまでの人生で最悪の日でしたし、これからの生涯の中でも、最悪の日になると思います」

調書によると、CさんとAさん、Bさんは大学の同級生で、川口さんはBさんの友達だったことから、いつも4人で遊んでおり、事件当日も4人で秋葉原にいたという。

検察官「A君は、私やB君がなかなか物事を決められないのに対し、何事においてもきっぱりと決めることができるので、頼りがいがある存在でした」

「川口君はB君の友達で、B君を通じて仲良くなりました。B君は、川口君のことを『いつも一緒にいることが当たり前の親友だ』と言っていました。川口君は物静かで人当たりがよく、遊びに誘うといつも来てくれる、人付き合いのいい人でした」

「私とA君、B君は夏休みにどこかへ遊びにいく約束をしていました。当然話をすれば川口君も来たと思います。しかし、その旅行もなくなってしまいました」

4人の関係や殺害された2人の人柄などについて説明する検察官。続いて、調書は事件当日の場面に移る。

検察官「(平成20年)6月8日午前7時ごろ、私たちはアニメの映画をみるために、JR新宿駅東口に集まりました。映画を見てから、電車に乗って秋葉原に行きました」

「私と川口君は格闘ゲームをやっており、どっちが強いか決めようと言っていました。私が『川口、今日決着つけようぜ』と言ったら、川口君は『分かった』と言っていました」

「A君が『マンガを買いたい』と言ったので、マンガを買いに行き、A君とB君が行ったことがあるという、つけ麺屋に行きました」

好きな映画を見て、マンガを買い、格闘ゲームをする約束をし、仲良くつけ麺を食べたという4人。楽しそうな休日の風景だ。しかし、この直後、惨劇が起きる。

検察官「私とB君が前を歩き、A君と川口君が後ろを歩いていました。私たちとA君たちの距離は1メートルもありませんでした。バラバラに歩いていたというわけではありません。振り向きはしませんでしたが、顔を横に向けて、(後ろの2人にも)話していました。横を向くと、後ろの2人が視界に入ってきました」

「私たちは、その日の朝見た映画の感想を話したり、せりふを言ってみたりしながら、今回の現場に到着したのです」

「後ろを歩いていたA君と川口君を見て『眠い』と言いました。2人がすぐ後ろを歩いていることが分かりました」

ここまで読み上げた検察官は「以下不同意です。同意したところから、再開します」と告げた。どうやら、はねられた様子を描写した部分の調書については、弁護側が不同意としたようだ。調書の読み上げは4人がはねられた後の部分から再開した。

検察官「私は右足を引きずりながら、B君とともにA君のそばに近づきました。A君の周りにはべっとりと血がついており、口からは食べたばかりの麺や血が出ていました」

「胸はひどくはだけていました。素人目にも重体であることが分かりました。私は体がガタガタ震えてしまいました」

「A君の名前を呼びました。しかし、A君の口からは、ゴフッ、ゴフッと血が流れてくるものの、呼び掛けには、答えてくれませんでした」

「どうしたらいいか分からず、名前を呼ぶだけしかできませんでした」

淡々と調書を読み上げていく検察官。加藤被告は、終始うつむき加減で、読み上げに聞き入っている。

検察官「B君が、『向こうに川口がいる』と言ったので、川口君のところへ行きました。口からは、やはり食べたばかりの麺や血が出ていました。直前まで履いてきた靴がなくなっていました。瞳孔が開いていました」

「私は、川口君に何度も『川口、川口』と呼びましたが、やはり反応してくれませんでした」

やがて到着した救急車。Cさんは川口さんを救助する救急隊のそばにいたという。

検察官「救急隊の人たちが『家族と連絡はとれませんか』と言ったので、川口君のそばに落ちていた携帯電話で川口君のお母さんに電話をかけ、『川口君が事故にあいました』と言いました」

その後、自らも救急車で病院に運ばれつつ、救急隊員から川口さんが収容された病院を聞き、川口さんの家族に伝えたというCさん。病院では、腰部打撲と診察された。

検察官「3、4日は、腰にじんじんとした痛みが残りました」

友人と生死を分けた1メートルの距離。体の傷は腰部打撲ですんだものの、2人の友人を一度に失った心の傷は深い。調書の読み上げは残り少ないようだ。読み上げが終われば、Cさんが入廷し、証言を行うことになる。

⇒(2)「ゲームの決着をつけたい…」友人を失った大学生