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(3)「掲示板は自分が帰る大切な場所」 子供のころ「2階の窓から落とされそうに…」

引き続き、元派遣社員の加藤智大(ともひろ)被告(27)に対する質問が続いている。加藤被告は膝に手を置き、前を向いたまま微動だにせず、よどみなく質問に答えていく。加藤被告の心中を引き出そうと、若い弁護人は丁寧な口ぶりで質問を続ける。

弁護人「逆に(掲示板の)利用をやめるということはできなかったのですか」

加藤被告「できなかったです」

弁護人「それはどうしてですか」

加藤被告「掲示板は他に代わるものがない大切なものだったからです」

弁護人「掲示板がそれほど大切なものだったということですか」

加藤被告「大切なものというより、大切な場所だった」

弁護人「どうして、そういう大切な場所になったんですか」

加藤被告「ネットの社会があります。本音で(友人らと)ものを言い合える関係が重要だった」

弁護人「あなたにとっては、どういう場所だったんですか」

加藤被告「帰る場所。自分が自分に帰れる場所でした」

弁護人「場所が重要だったんですか」

加藤被告「掲示板も重要だったが、そこでの友人、人間関係が重要だった」

弁護人「現実は建前といわれていましたが、掲示板でなく、現実に話し合える友人はいなかったんですか」

加藤被告「そういう人はいませんでした」

弁護人「掲示板でも(書き込み内容を)文字通りにとったら間違いになると言っていた」

加藤被告「本音ではあるが本心ではないということです」

被告は弁護人の方を向くことなく、まっすぐ前を向いたまま、動揺もみせずに答え続ける。

弁護人「(掲示板では)どういう嫌がらせがあったのですか」

加藤被告「暮らし、大切な人間関係が乗っ取られた。壊された。奪われたという状態になりました」

弁護人「なりすましとはどういう行為ですか」

加藤被告「私以外の人が書き込むことです」

弁護人「荒らしとはどういう行為ですか」

加藤被告「やり方は色々あるが、嫌がらせの行為。人との交流ができないような状態にする行為です」

弁護人は、核心に迫ろうと、ほんの少しだけ間をおいた。

弁護人「(友人との)交流がある大切な居場所を壊された。そのことが、この事件の原因だと思っていますか」

加藤被告「その中の一つです。私にとっては(原因と考えることは)3つあります」

弁護人「掲示板が一つですね。あとは」

加藤被告「そのもの。私のものの考え方です。次が掲示板での嫌がらせ行為。掲示板に依存していた私の生活の在り方。その3つが原因と考えます」

弁護人「その中で、一番重要と考えるのはなんですか」

加藤被告「私のものの考え方が一番だと思います」

弁護人「どうして?」

加藤被告「私の考え方、事件を思いつくことがなければ、何も起こらなかった。思いつかなければ、起きるはずがないからです」

弁護人「具体的にどのような考え方が間違っていたと思いますか」

加藤被告「言いたいことや伝えたいことをうまく(表現)することができなかった。言葉でなく、行動で示して周りに分かってもらおうという考え方でした」

弁護人「(現実社会でなく)別の所でアピールして分からせる。そういう考え方になったのはどうしてですか」

被告が一瞬下を向くような動きを見せる。

加藤被告「おそらく、小さいころ、母親からの育てられ方が影響していると思います」

弁護人「親のせいだということですか」

加藤被告「そういうことではないです。感情的にではなく、今まで考えてきて、自己分析した結果、そう考えます」

弁護人「(事件後)ずっと考えていたということですが、親をうらんでいますか」

加藤被告「そういう気持ちはないです」

弁護人は、準備した紙に目線を落としながら、質問を続ける。

弁護人「掲示板に依存していたことも原因といわれていますが」

加藤被告「私のものの考え方で、(掲示板での)嫌がらせから事件を思いついた。ほかに何かあれば。掲示板以外の所で解決できたのではないかと思います」

弁護人「事件を起こしたことをどのように思っていますか」

加藤被告「起こすべきではなかったと思うし、後悔しています」

弁護人「これから、長い時間をかけて詳しく聞きますが、説明を逃れようとする気持ちはありますか」

加藤被告「そういう気持ちはありません。一生懸命お答えしていきます」

ここで、男性弁護人から、女性弁護人に質問者が交代。被告の幼少時代、特に被告の人格形成に大きな影響を及ぼしたとされる母親についての質問になる。女性弁護人が適切と判断したようだ。

弁護人「子供のころにさかのぼって聞きます。生年月日を教えてください」

加藤被告「昭和57年9月28日です」

弁護人「生まれはどこですか」

加藤被告「青森県五所川原です」

弁護人「生まれてからずっと五所川原ですか」

加藤被告「青森市内に引っ越しました」

弁護人「どんな家に住んでいましたか」

加藤被告「最初はアパート。その後に実家を新築しました」

弁護人「新築したのはいつごろですか」

加藤被告「幼稚園ぐらいだったと思います」

弁護人「誰と一緒に住んでいたのですか」

加藤被告「父、母、弟です」

弁護人「家族以外で親戚(しんせき)との交流はありましたか」

加藤被告「最初はありました」

弁護人「最初というと?」

加藤被告「いつのまにか親戚の家に、遊びにいくことがなくなりました」

弁護人「交流というのは遊びに行くという意味ですか」

加藤被告「そういうことです」

弁護人「父方と母方の両方。おじいちゃんとおばあちゃんの家にも遊びに行っていましたか」

加藤被告「はい」

弁護人「いつごろまでいっていましたか」

加藤被告「小学校のころまでです」

弁護人「その後はいかなくなった」

加藤被告「はい」

弁護人「ご両親も」

加藤被告「家族は会っていたようですが、自分だけいかなくなりました」

被告の家族と被告の間には、すでに小学生のころから距離があったようだ。

経歴を中心に質問をしていた女性弁護人も、少し間をおいた。

弁護人「小さいころのことで一番記憶にあることはなんですか」

加藤被告「アパートに住んでいて、母親にトイレに閉じこめられたことです」

弁護人「何歳ぐらいの時のことですか」

加藤被告「3歳ぐらいだったと思います」

弁護人「どうして閉じこめられたのですか」

加藤被告「理由はよく分かりません」

弁護人「わざと?」

加藤被告「そう思っています」

弁護人「なぜ、そう思っているのですか」

加藤被告「窓がないトイレで、電気を消されたことがあったからです」

弁護人「理由が分からないが、閉じこめられた記憶があると」

加藤被告「そうです」

弁護人「お母さんからされた記憶が一番記憶に残っている」

加藤被告「はい」

弁護人「青森市に移ってから、お母さんから何かされましたか」

加藤被告「2階の窓から落とされそうになったことがあります」

弁護人「なぜ?」

加藤被告「その直前に、母が夕食の準備をしていて、3つの皿にキャベツの千切りを盛っていたが、子供のいたずら心で、一つの皿にまとめたら、母親が激怒しました。そういうことがありました」

弁護人「いたずらに怒った」

加藤被告「はい」

弁護人「窓から落とされそうになった状況を具体的に教えて下さい」

加藤被告「首の後ろを押さえつけられて、体は窓の外に大きくせり出したような形になった」

弁護人「そうされてどう感じた?」

加藤被告「落ちると思いました」

弁護人「冗談だとは思わなかったんですか」

加藤被告「自分は落ちないように必死だった。抵抗しなければ落ちていたと思います」

弁護人「母親が過剰になることはよくあったのですか」

加藤被告「よくあった訳ではないが…。何が原因か分からないが、家から閉め出されたことがありました」

これまで質問にとまどうことのなかった被告も少し言葉を詰まらせた。

弁護人「あなたのいたずらが原因ですか?」

加藤被告「覚えていないです」

弁護人「理由がないのに怒られる。毎回そうだということですか」

加藤被告「毎回よく分からない。説明をされないということです」

弁護人「何が悪いか教えてくれない」

加藤被告「そういうことです」

弁護人「母親との楽しい思い出はありますか」

加藤被告「特に思い当たることはありません」

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