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(7)大量血痕の現場写真、被告はまばたき繰り返し…

約3時間半に及んだ休廷時間。開廷予定時刻は午後3時だが、その5分前にはすでに傍聴席は埋まっていた。午後2時56分、加藤智大被告(27)が向かって左手の扉から入廷してきた。

ドアが開くと軽く一礼し、午前中と同様、傍聴席近くまで進んでいったん立ち止まり、傍聴席の被害者や遺族に向けて再度一礼する加藤被告。午後2時57分、静かに弁護人の前の長いすに座った加藤被告を見届けると、村山浩昭裁判長が開廷を告げた。

裁判長「定刻より早いようですが、始めます」

まず、村山裁判長が公判前手続きの要旨について説明することを告げると、村山裁判長に向かって右隣に座る女性裁判官が言葉を継いだ。

女性裁判官は、今回の事件捜査における証拠類が極めて多数におよび、弁護人がこれらの開示を受けて検討に長時間を必要としたことなどを述べた後、公判の争点の説明を始めた。

裁判官「争点の1番目は、□□さん(法廷では実名)に対する殺人未遂罪における殺意の有無です」

これは、数多い被害者の中でただ1人、加藤被告による傷が刺し傷ではなく切り傷だった□□さんに対し、加藤被告に殺意があったのか否か、という点を争うということだ。

裁判官「2番目は、(加藤被告を取り押さえた)巡査部長に対する公務執行妨害罪における公務性に対する被告の認識です。これ(の争点)は、巡査部長が職務をしていたことを被告が認識していたかどうか、です」

ここまで述べた女性裁判官は、起訴状にある殺人罪、殺人未遂罪などの各犯行の事実関係については争いがないことを説明し、さらにもう一つの争点について言及する。

裁判官「3番目は被告の責任能力の有無および程度です」

検察側は、起訴前の精神鑑定などをもとに、加藤被告には完全責任能力があったとしているが、弁護側は加藤被告が犯行時に心神耗弱などの状態にあったと主張している。

さらに、女性裁判官は今回の証人が検察側36人、弁護側6人の計42人になること、8月4日までに22回の公判期日が指定されていることなどを説明し、公判前整理手続きの結果の説明を終えた。

裁判長「それでは、証拠調べに入っていきたいと思います。本日は甲号証の調べを行っていきたいと思います。では、検察官お願いします」

村山裁判長に促された検察官が立ち上がり、リモコンで法廷の左右に取り付けられた大型モニターの電源を入れた。

映し出されたモニターには「要旨の告知」と記されている。

検察官「甲114号証は捜査報告書です。これは現場の状況をまとめたもので、(犯行当日の)6月8日に行われた実況見分の結果です」

モニターには、犯行現場となった秋葉原の地図が映し出された。

検察官「この画面の上が北となっており、下の部分がJR秋葉原駅です」

地図の位置関係について説明する検察官。中心現場となった「外神田3丁目交差点」を現場交差点と呼ぶことなどを告げた後、現場交差点を中心にさまざまな角度から撮影した写真を次々にモニターに映しだしていく。中には、加藤被告が乗っていたレンタカーのトラックが写ったものもある。

検察官「ここからは、それぞれの被害者が倒れていた状況を、写真を示しながら説明していきます」

映し出されたのは、加藤被告が運転するトラックにはねられた元歯科医の中村勝彦さん=当時(74)=が倒れていた現場の写真だった。生々しい血痕が写った写真を、加藤被告は無表情のままじっと見つめている。

検察官「次にAさんの倒れていた場所です。事件当時の現場の写真です」

Aさんも、加藤被告のトラックにはねられた被害者だ。モニターには、Aさんのものと思われる大量の血痕の映像が映し出された。

加藤被告は緊張しているのか、モニターを見上げながら何度もまばたきを繰り返している。

検察官「続いて、川口隆裕さん=当時(19)=が倒れていた場所です。大量の血痕のようなものが確認できます」

川口さんも、トラックにはねられた被害者だ。

検察官「次は、Eさんが倒れていた場所の確認です。現場の中央通りの交差点から、少し東に進んだ付近です」

「これは、Fさんが倒れていた現場です。Eさんが倒れていた場所より、少し交差点に近いところです。ここでも、血痕のようなものが確認できます」

2人は、交差点の東側で倒れていた。加藤被告がトラックから降りた直後、最初にダガーナイフで刺され、死亡した被害者だ。

検察官「次は、△△さん(法廷では実名)です。△△さんは、交差点の内側付近で倒れていました。近くにはアメの袋が落ち、やはり大量の血痕が確認できました」

△△さんは、加藤被告のトラックにはねられた人を助けている最中に、背中を刺された被害者だ。一命を取り留めたが、現在も後遺症に苦しんでいる。

検察官「続いてGさんが倒れていた場所です。交差点の内側の南東付近です」

「Hさんの倒れていた場所に移ります。現場近くを写した写真はこれです」

凄惨(せいさん)な写真が、大きなモニターに次々に映し出される。加藤被告は相変わらず無表情のままだが、緊張しているのか、時折大きくのどを動かしてつばを飲み込むようなしぐさをしている。

検察官「続いて、Iさんが倒れていた現場です。中央通りを南に進み、西側に入った路地です」

現場の写真が映し出された。路地には多くの通行人も写っており、当日、多くの人々が秋葉原を訪れていたことが伝わってくる。

その後も、詳細な犯行現場の確認作業が続けられた。傍聴席に座る遺族の中には、凄惨な写真に目をそらす人もいた。

⇒(8)被害者が写っている…モニター暗転、5分沈黙