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(6)姉が涙「葬式でもウエディングドレスを着せたかった」

仲良く同居し、買い物からダイエットに至るまで、いつも一緒にやっていたという東城瑠理香さんと姉。姉に対する質問が続けられる。

検察官「あなた自身の記憶の中で、一番古いものは何ですか」

証人「私が4歳、瑠理香が3歳のときの記憶です」

検察官「場所はどこですか」

証人「保育園の教室です」

検察官「あなたたちは何をしていましたか」

証人「両親が共働きだったので、私たち2人は居残り保育をしていました」

母親が迎えにくるのが遅く、瑠理香さんと姉の2人は、別の園児たちが1人、また1人と帰っていく中で、ずっと教室に残っていたという。

検察官「だんだんと暗くなる中で、何をしていたのですか」

証人「私と瑠理香は絵を描いていました。ウエディングドレスの絵です。キラキラした絵をずっと描いていました」

検察官「もし瑠理香さんがいなかったら、あなたはどうだったと思いますか」

証人「さみしかったと思います。暗くなるまで(母親を)待っていましたから」

ここで大型モニターに、父親が保育園の前で撮影した2人が並ぶ当時の写真が映し出される。これまで気丈に答えてきた姉は、こらえきれなくなっておえつを漏らす。

検察官「あなたの(人生での)記憶のあるころから、2人はずっといたのですね。2人は前世についても語りあっていますね」

証人「『どうして(2人は)仲がいいんだろうね。きっと前世でも関係があったんだろうね』と、瑠理香が言っていたことがあります。うれしかった…」

検察官「瑠理香さんと過ごした23年間は幸せでしたか」

証人「幸せでした!」

検察官「瑠理香さんと将来についても話をしていますね?」

証人「母と叔母のように、お互いの子供たちを遊ばせあったり、大きくなっても『いとこ会』を開いたりしたいと話していました」

大型モニターに、瑠理香さんや姉、いとこらが一緒に遊ぶ幼いころの写真が映し出させる。その瞬間、姉のすすり泣く声が法廷に響く。

検察官「瑠理香さんが生きていたらやりたかったことは何だと思いますか」

証人「仕事をたくさんすることです」

検察官「それから…」

証人「『大学院に行って、もっと英語を勉強したい』と言っていました」

検察官「それから…」

証人「『早く結婚して、男の子を産みたい』と言っていました」

検察官「なぜ、男の子なのですか」

証人「『うち(家系)には男の子がいなかったので、絶対に産みたい』と言っていました」

さまざまな夢を持っていた瑠理香さんだが、星島貴徳被告の手にかかり、いわれもなく殺害された。検察官は事件時の様子や公判で星島被告が語った犯行の状況について、どう姉が感じていたのかを尋ねる。

検察官「公判で星島被告は『金曜日のOLを拉致すれば、月曜日まで犯行が発覚しない』と言っていますが…」

証人「土日に休みがあるにしても、だれかと連絡を取り合わない人はいないと思います」

検察官「瑠理香さんは連れ去られた後も、叫び声をあげませんでしたね」

証人「『絶対に叫ばなければ、何かをされたとしても生きて帰してくれる』と思っていたはずです。生きて帰してくれれば…。何かをされたとしても、瑠理香なら(立ち直って)、また笑って暮らせる…」

感情があふれ、姉は涙で言葉がつなげられない。

検察官「(犯行日の昨年)4月18日は午後10時20分に、(姉からの通報を受けて)捜査員が星島被告宅を訪問していますね。そのときに瑠理香さんは、どう思ったと考えますか」

証人「『きっと助けに来てくれた』『○○(姉の名前)が警察に連絡してくれたんだ』と思っていたはずです」

検察官「その40分後、『警察に捕まりたくない』という理由で、瑠理香さんは殺害されました。瑠理香さんは、どう思っていたのでしょうか」

当時の状況を想像してか、『はぁ、はぁ』と姉の呼吸は荒くなり、なかなか答えられない。

証人「何で…。何で急にこうなるのか…」

検察官「あなた(姉)は、(星島被告の公判での話を聞いて)どう思いますか」

証人「う〜ん…。分かんない」

検察官「わずか40分で殺害を決意することについて、どう思いますか」

証人「人の命を何だと思っているんだ。そんな簡単に決めていいのか。犯人に人の命を決めてほしくない!」

検察官「裁判を傍聴したくないと思ったことはありませんか」

今回の公判では、遺族が目を覆いたくなるような殺害時の状況を再現した様子などが大型モニターに映し出され、検察官は、耳を覆いたくなるような殺害時の状況を詳細に星島被告に尋ねる場面が続いた。

証人「ありません」

検察官「どうしてですか」

証人「瑠理香が苦しんで死んでいったのを分かってあげなければ…」

ただ、いとこらが耐えられずに涙を流して一時退廷する中でも、姉は涙はでなかったという。『死んだ実感がなかった』姉は何度もこう話す。

検察官「瑠理香さんは殺害された後、星島に浴室で手足を切断されていますね」

証人「これまでだれにも傷つけられたことのない肌で、痛かったと思います」

検察官「瑠理香さんは髪の毛を大事にしていましたよね」

証人「はい」

検察官「星島は髪の毛を切って、トイレに流しましたが、あなたはどう思いますか」

証人「瑠理香は髪の毛を一番大切にしていました。『染めると痛むし、美容院に行くと短く切られるし』と自分で手入れしていました。それをトイレに流すなんて、これまで何の意味があったのか…」

検察官「『MIU MIU』というブランドの小物も大切にしていましたが、それも切り刻んでトイレに流されましたね」

証人「いくら瑠理香と一緒に流したと言って、うれしくあるはずがありません。切り刻んだら、天国に行っても使えない」

検察官「もし、瑠理香さんが(切り刻まれずに)ちゃんとした形で帰ってきたら、どのようなお葬式にしたかったですか」

証人「瑠理香とよくウエディングドレスのことで話をしていました。デザインとか素材とかも決まっていました。ドレスを作って着せてあげて、顔の周りも、きれいなお花で埋めて、顔が見えるようなガラスの棺に入れてあげたかった」

⇒(7)姉「お墓ができたらハンマーで壊しに行きます」