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(1)「被害者の驚きの顔忘れられず」「彼に捨てられるのが怖かった」

大阪市営地下鉄の電車内で今年2月、会社員の男性が痴漢にでっちあげられた事件で、元甲南大生の蒔田文幸被告(24)=公判中=と共謀したとして虚偽告訴などの罪に問われ、23日に大阪地裁で初公判が開かれた阪田真紀子被告(31)。「最低のことした」と涙ながらに謝罪したが、その詳細は−。

午前10時、大阪地裁802号法廷。阪田被告は女性の弁護人に付き添われて出廷した。

上下黒のスーツとスカート。うっすらと茶色がかった髪を後ろにあげた阪田被告は、視線を落とす。満席の傍聴席には、痴漢にでっちあげられた被害者の男性の姿も。阪田被告は不安げな表情のまま被告人席に着席した。

裁判官による人定質問に続き、検察官が起訴状を朗読した。

裁判官「検察官が今読み上げた起訴状について何か言いたいことはありますか」

阪田被告「いえ、ありません」

阪田被告は消え入りそうな声で起訴事実を認め、続いて、検察官による冒頭陳述が行われた。

まず身上経歴、蒔田被告との関係について検察官は淡々と言及する。

検察官「被告人は大学を卒業後、会社員などとして稼働した後、現在は無職です。1月下旬、大阪・道頓堀で蒔田被告から声をかけられて知り合い、同居を始めた」

背筋を伸ばし、白いハンカチを握りしめる阪田被告。

検察官「蒔田被告は『ゆくゆくは総理大臣になって日本を変えたい。選挙に出るために金がほしい』と話していましたが、数日後には『女は金になる。なんぼでも稼げる方法知ってる。痴漢が一番熱い』などと、痴漢をでっちあげて示談金と称して金品を脅し取る方法を話したりしていました」

検察官は自首の状況も明らかにした。

検察官「被告人は電車内で『触りましたよね』と言ったときの被害者の驚きの顔が忘れられず、罪のない人に罪を着せてしまったという罪悪感にさいなまれ、被害者の無実の罪をはらさなければならないと思い、2月7日、警察に自首した」

審理は被告人質問に移った。

弁護人「さきほどの起訴状に書かれた犯行、間違いないんですか」

阪田被告「はい」

弁護人「今、犯行を振り返ってどう思いますか」

阪田被告「とんでもないことをしたと……。ほんとにとんでもないことをしてしまいました。被害者の方にご迷惑をおかけして、最低なことをしたと思っています」

弁護人「動機はなんですか」

阪田被告「ちょうど彼(蒔田被告)に出会った時は、精神状態がひどい時で、彼が心の支えになっていました。彼は『自分も鬱(うつ)だ。一緒に治していこう』と優しい言葉をかけてくれたことがあったので、彼に対して信頼を寄せていました。生きる支えになっていて、彼が私のところからいなくなるのが怖くて、彼の言うことを聞こうと思いました」

4、5年前から阪田被告に鬱病の症状がみられ、精神的に不安定な状態が続き、事件後は特に激しい自責の念に苦しんだという。

弁護人「(蒔田被告を)喜ばせることをしたいと」

阪田被告「はい」

弁護人「でも、いいことと悪いことの区別はついたんじゃないの」

阪田被告「今になるとそれははっきりわかりますが、その時は感覚が麻痺していて…。でも、事件の後にひどく辛い状態になってしまい…。ほんとうに悪いことをしたと…。でもそのときは彼に捨てられてしまうのが怖かったので」

弁護人「起訴されたいずれの事件も、あなたの協力がないとできない犯行でしたね。美人局(強盗未遂)事件の被害者をメールで呼び出して喫茶店で話したとき、『この人これから蒔田に殴られるんだ』という罪悪感はなかったの」

阪田被告「被害者の人は優しくて紳士的な方だったので、この人がこれから犯行に巻き込まれるのかと思うと、私自身逃げ出したい気持ちでいっぱいでした」

弁護人「でも言えなかったの」

阪田被告「何度も言おうと思いましたし、チャンスもあったのですが…」

弁護人「結局、言えなかったと」

阪田被告「はい」

弁護人「実際に暴行の場面を見ましたね。平気でしたか」

阪田被告「蒔田被告が『おれの女に何しとんじゃ』と暴力を振るっていましたが、被害者の方がまったく抵抗せずに殴られていたので、怖くて正視できませんでした。頭がパニックになり、怖かったです」

弁護人「痴漢は蒔田被告が言い出したの」

阪田被告「はい。彼は『女は金になる』『痴漢が一番熱い』『ちょろいからまかせとけ』と言っていました」

⇒(2)「彼の心を引き止めたくて、でっちあげの失敗を取り戻すため、盗みも手伝った」