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(1)歌織被告は「逃れたいと、とっさに殺意」

■主文

 歌織被告を懲役15年に処する。

 未決拘置日数中280日をその刑に算入する。

■犯行の背景と犯罪事実

 1 歌織被告は平成15年3月、三橋祐輔さんと結婚。直後から、祐輔さんから種々の暴行や精神的束縛(ドメスティック・バイオレンス=DV)を受けていた。平成17年6月には鼻骨骨折などの重傷を負う暴行を受け、約1カ月間、シェルターに入所した。

 祐輔さんが暴力を振るわないなどと約束したことから、歌織被告は再び、祐輔さんと暮らすようになった。しかし、その後もDVは続き、夫婦間のいさかいも絶えなかった。歌織被告は祐輔さんに対する怒りと憎しみを募らせていった。

 歌織被告は祐輔さんとの生活から逃れられないと思い込みながらも、離婚に向けて仕事や住居を探し始めていた。

 歌織被告は、祐輔さんと交際中の女性との会話を秘密裏に録音することに成功、平成18年12月11日、祐輔さんと離婚などについて話し合うことにして祐輔さんの帰りを待った。

 祐輔さんは、翌12日午前4時ごろになって帰宅。録音の件をほのめかされたのに、離婚などの話し合いに応じることなく眠りに就いた。

 2 歌織被告は、これまでの夫婦間の葛藤(かっとう)や、自分の人生にまつわる辛い体験に思いをめぐらすうちに、今後も祐輔さんとの生活が継続することに絶望的な気持ちになった。「祐輔さんから逃れたい、この生活を終わらせたい」などと考え、とっさに祐輔さんに殺意を抱いた。

 同日、渋谷区の自宅マンションで、就寝中の祐輔さんに対し、殺意をもって、肩に持ち上げていたワインの瓶を頭部に振り下ろした。起き上がった祐輔さんに対し、恐怖を感じつつも、さらに殺意をもってその頭部を瓶で数回殴打し、脳挫傷で死亡させた。

 3 歌織被告は、同14日ごろ、自宅マンションで祐輔さんの遺体の首、腹部、左ひじ付近、右手首付近をのこぎりで切断。同日、頭部、左腕および右手を切り離した遺体の上半身を、新宿区内のビルの植え込みまで運搬し、放置した。

 同16日ごろには、遺体の下半身を渋谷区内の民家まで運搬して放置。さらに頭部を町田市の公園内の雑木林まで運び、土の中に埋めた。

 歌織被告はこのようにして、祐輔さんの遺体を損壊し、遺棄した。

■犯行の背景に関する補足説明

 検察官は、歌織被告がシェルターを出所した後は祐輔さんによるDVはなくなったと主張する。

 犯行前の状況に関する証人らの供述や歌織被告の手帳などの記載、祐輔さんの携帯電話の通話履歴、その他の関係各証拠からすれば、歌織被告の供述するとおり、祐輔さんからの暴行は、両手を挙げて身体からぶつかるといった具合に、手拳や平手による直接的な殴打とはとられないかたちで、出所後も継続していた。

 また、歌織被告の周囲に、歌織被告のことをことさら悪く言い、自分に落ち度がないように装ういわゆる「囲い込み」が行われるなど、祐輔さんによるDVはなくなっていなかったと認められる。

⇒判決要旨(2)「犯行は歌織被告の意思と判断に基づく」