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(3)そのとき「地球上の全エネルギーが。体中から汗が」

引き続き検察官の質問が続く。検察官は前回の被告人質問での証言と、鑑定人に歌織被告が話した内容の矛盾点を問い詰める。

検察官「被告人質問ではキッチンからワインボトルを持って、(リビングで寝ていた)祐輔さんの枕元に座ったと言ったが、これは記憶していたのではないのか?」

歌織被告「部屋が狭いので(祐輔さんが寝ていた)マットレスを敷くと歩く所が限られるので、それ(キッチンからリビングに移動したという行動)以外あり得ないからそうなんだろうと」

検察官「鑑定人に対して、キッチンからリビングにワインボトルを持っていたのも片手だったか両手だったか覚えていない、と話したのか?」

歌織被告「はい」

検察官「鑑定人はそれに対してどう質問した?」

歌織被告「覚えていない」

検察官「鑑定人の話では、あなたがワインボトルを手にした記憶があるが、その後記憶が全くなくなり、気付いたら(祐輔さんの)枕元に座っていたとのことだが、鑑定人に対してそのように話したのか?」

歌織被告「はい」

検察官「キッチンからリビングにいったこと自体は覚えているのか?」

歌織被告「行ったこと自体は覚えている」

供述が矛盾する歌織被告。質問の意図を理解させようと裁判長が助け船を出す。

裁判長「キッチンからリビングにどうやっていったかについては?」

歌織被告「部屋が狭いので行き方はひとつしかないので行ったのであろうと…」

検察官「行った記憶は?」

歌織被告「はっきりとは…。ただ、そうなんだろうと」

検察官「キッチンからリビングに移動したことについて不思議には思わなかったようだが、鑑定人はその間の記憶が全くなかったと言っているが?」

歌織被告「不思議だと思わなかった」

検察官「鑑定人の証言では、『キッチンにいたのに気付いたら、リビングにいた』と受け止められる。なぜキッチンからリビングにいたのかという記憶はなかったのか?」

歌織被告「全くなかったと言ったのではなく、(凶器となるワインボトルを手にした)あの時にいちばん覚えているのは、キッチンに立つと窓から代々木公園が見えて、真っ暗な絵(光景)は覚えている。が、金先生(検察側請求の金吉晴鑑定人)の説明でいうその間の記憶が全くないというのは、歩いたりどうしたりという行動についてあまり記憶にない(という意味)」

検察官「金先生から『その間まったく記憶がなかったんだね』と聞かれたか?」

歌織被告「そこまで覚えていない」

細かな記憶や認識について、検察官の質問は続く。

検察官「被告人質問では、ワインボトルを持ってリビングに行き祐輔さんを殴った時の状況について、『とにかく彼から逃げたい』と言ったがこれでいいか?」

歌織被告「はい」

検察官「1発目(に殴った時)の力加減について『わからない』と言っていたが?」

歌織被告「覚えていない」

検察官「鑑定人の話では、祐輔さんが寝た後、地響きのような感情が起きあがったというがどういう感情か?」

歌織被告「感情…? 感情とは違うと思うが、自分でも何か分からないが、地球上の全部のエネルギーがワーッという…感情とは違うような…体中から汗が出てくるし、とにかくワーッという感じ」

⇒(4)「すべてが面倒くさい。もういいや」