第6回公判(2008.11.28)

 

判決要旨

羽賀被告

 ■主文

 被告人両名はいずれも無罪

 ■理由の要旨

 ◎裁判所の判断

 ・公訴事実(1)について

 争点は、羽賀研二被告が医療関連会社株の真の購入価格(1株40万円)を秘して、購入価格と同一の価格(1株120万円)で知人男性に譲渡するように装ったかどうかである。

 知人男性は、公訴事実に沿う供述をし、(1)同社株の購入は羽賀被告が勧めたもので、(2)購入価格が1株40万円という事実は知らされていなかった旨を述べているのに対し、羽賀被告は(1)同社株の購入は知人男性が強く求めたもので、(2)購入価格が1株40万円という事実は知人男性に伝えていた旨を述べている。

 知人男性の供述は、株式譲渡契約書等の客観証拠と整合しており、一定の信用性はあるが、他方、羽賀被告の供述も、その供述の視点から株式譲渡契約書等を検討すると、その記載内容とは基本的に矛盾しないものとなっている。これに、羽賀被告が1株40万円で同社株を入手していた事実を知っていたことをうかがわせる知人男性の言動が存在したとする証人(羽賀被告の知人の男性歯科医)の供述を加味すると、知人男性の供述に全幅の信頼を置くことはできず、知人男性が述べるような詐欺の文言を羽賀被告が発したものと認めるにはなお合理的な疑いが残る。

 ・公訴事実(2)について

 主たる争点は(1)恐喝の前提となる債権が存在するかどうか(2)羽賀被告及び渡辺二郎被告が、暴力団関係者A、Bと恐喝の共謀をしたかどうかの2点である。

 【争点(1)について】

 検察官は、株式譲渡契約書に記載された損失補填(ほてん)条項は、株式が上場されないまま同社が倒産した場合にも適用されると主張する。しかし、同条項には「上場後」と明記されており、羽賀被告も知人男性も同社株が上場されない事態は予想していなかったものであって、上場前の倒産も含めた損失補填の意思の合致が当事者間にあったとは認められない。

 また、検察官は、羽賀被告の詐欺行為によって株式譲渡契約が締結されているから、詐欺の取り消しまたは錯誤による無効に基づき、知人男性は交付した金員の返還請求権を有していると主張する。しかし、羽賀被告に詐欺罪が成立しないことは上記のとおりであって、詐欺または錯誤を理由とする返還請求権は認められない。

 知人男性の羽賀被告に対する貸金債権についても、その残債権があったものということはできない。

 したがって、恐喝の前提となる債権は認められない。

 【争点(2)について】

 本件当日、渡辺被告が、ホテル内で、確認書への署名を渋る知人男性に近寄り、にらみつける行為をしたことなどの事実は認められる。

 しかし、恐喝の共謀成立については、これを肯定する趣旨のA及びBの供述には、その信用性に疑義がある。すなわち、Bは、渡辺被告が1000万円での解決を持ちかけてきたと供述するが、同供述に現れた渡辺被告の言動はいかにも唐突な印象である上、Bとの交渉に関与した羽賀被告の友人の存在には全く触れられておらず、羽賀被告が依頼して代理人弁護士が作成した複数の確認書等の記載内容とも明らかに整合しない。Bは、知人男性から要請を受けて交渉に臨みながらその態度を一変させ、羽賀被告が5億円を支払うことで話がまとまったかのような虚言まで弄して知人男性をホテルに呼び出し、ホテル内では自ら知人男性を脅して1000万円を受領させ、その中から375万円を取得しているのであって、このようなBの行動傾向も併せ考えると、Bが本件恐喝への渡辺被告の関与の度合いを殊更に増幅して供述している可能性も否定できない。また、Aも1000万円の中から250万円を受領しており、その供述の問題点はBにおけるのと同様である。

 無罪となった羽賀研二さん=東京・品川 渡辺被告が羽賀被告から受領した3000万円について、検察官は恐喝行為への謝礼の趣旨であると主張するのに対し、被告人両名は羽賀被告から渡辺被告への貸金の返済金であると供述している。この点に関して、両被告人間で交わされた領収書(300万円について)と覚書(2700万円について)の各記載内容は、羽賀被告名義の銀行預金通帳の記載内容とともに、被告人両名の供述を裏付けるものとなっている。

 そうすると、渡辺被告については、本件交渉への一定の関与がうかがえ、上記のようなホテル内での言動もあるが、交渉への具体的な関与態様が明らかでない状況下では、そのような言動は、渡辺被告がBらとともに恐喝を行う意思を有していたことを直ちに推認させるものとはいえない。

 羽賀被告については、本件直後に渡辺被告から電話で報告を受けている事実などが認められるものの、知人男性との紛争解決については随時弁護士に相談するなどしており、本件当日も確認書を携えた弁護士に立ち会いを求めていることなどからすれば、羽賀被告において、直ちに脅迫等を用いなければ知人男性との交渉がまとまり得ない状況にあったとの認識を有していたとまでいうことはできない。

 以上によれば、羽賀被告及び渡辺被告がA及びBと本件恐喝の共謀をしたものと認定するについてはなお合理的な疑いが残る。また、渡辺被告の上記の言動を恐喝の実行行為の一部と評価することもできない。

 ・結論

 よって、本件各公訴事実はその証明がなきことに帰するので、刑事訴訟法336条により被告人両名につき無罪の言い渡しをする。

         以上

⇒その後