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(3)「彩香ちゃんへのマイナス感情はストレートな性格ゆえ」弁護側反論

午前10時50分、検察側による厳しい求刑の後、弁護側が最終弁論を始めた。鈴香被告は相変わらず視線を落とし微動だにしない。

弁護側は、まず、検察側に『荒唐無稽』とまでされた精神科医、中島直医師の意見書の“信用回復”に躍起となる。

弁護人「中島医師の信用性についてですが、中島医師は殺意や責任能力などで、弁護側の見解をも批判しています。鑑定に利用した資料もすべて証拠採用されたもので、面談時間こそ少ないものの、(捜査段階で簡易鑑定した)○○(実名)医師も3回しか面談しておらず、時間的制約は信用性に関係ありません。信用性は高いと思われます」

続けて、信用性の高いという中島鑑定を援用しつつ、むしろ1審の精神鑑定結果の信用性こそ問題だと印象付けていく。

弁護人「(簡易鑑定の)○○医師の問題点についてですが、(簡易鑑定では)被告は攻撃性と自己顕示性があるといいますが、中島医師の言うように、『一般論から性格を引き出すのは控えるべきで、本人の動機に争いもあり、(簡易鑑定のように)人を殺したから攻撃性があるというのは循環論法に陥るため極力避けるべき』です。この簡易鑑定に対する批判は説得力があります」

弁護側は早口で最終弁論を読み上げる。裁判長が「もっとゆっくり読むように」とたしなめるが、弁護側の口調はスピードを増す一方。続いて、鈴香被告の自己顕示性が強いとする簡易鑑定の否定に移った。

弁護人「次に(簡易鑑定で指摘された)自己顕示性についてです。まず、彩香ちゃん事件の前に被告の自己顕示性を示す証拠は一切ありません。中島医師は『(事件後の自己顕示的な行動は)精神的に不安定な中での反応』と述べています。事件後の行動は合理的なものではありません」

弁論は、鈴香被告の人格に移る。1審で認められた彩香ちゃんへの殺意の根拠などについて、特殊な人格に起因するものとして否定を試みる。弁護側によると、鈴香被告の事件前の彩香ちゃんへの接し方の問題は、人格障害が原因という。

弁護人「被告の人格についてですが、中島医師は『発達障害の視点で被告をみるのが有効』と述べています。(事件を理解するには)被告の性格特性を知る必要があります」

「第1(彩香ちゃん)事件前に、被告は育児に悩んでいましたが、『できていたかは分かりませんが育児を夢中でやっていました』と述べており、彼女なりに必死で養育をやっていました」

鈴香被告が苦手な掃除や洗濯の回数も彩香ちゃんの生後は増加し、彩香ちゃんを忌み嫌っていたとする検察側の主張に反論を加える。

弁護人「被告は幼少期から掃除が苦手でしたが、彩香ちゃんが生まれて以降、彩香ちゃんの身の回りのものを掃除するようになりました。元々、2週間に1回しか洗濯しなかったのですが、よだれかけなど週に2〜3回は洗濯するようになりました」

「彩香ちゃんだけでなく、元恋人を含め他人の汗が嫌だっただけです。彩香ちゃんを嫌っていたわけではありません」

常人からみれば奇異な子育ても「被告なり」の精一杯の子育てだったことを強調する弁護側。

鈴香被告が時折、逮捕前に他人に見せた彩香ちゃんへの“疎ましさ”も中島医師の言う「場当たり的」な性格のせいだという。

弁護人「平成17年の(鈴香被告の)父親の入院前までについてですが、被告は東京に出たいと漠然と考えていましたが、それは“場当たり的”なもので、彩香ちゃんを嫌っていたからではありません」

「17年10月、東京の友人へ、子供の列に車が突っ込んだニュースをみて送った『この中に彩香がいれば』というメールですが、これも彩香ちゃんへの瞬間的なマイナスの感情で、誰にでもあることです。鈴香被告のストレートな性格が出たもので継続的なものではありません」

まくし立てるような必死の最終弁論。しかし鈴香被告は猫背になり、どこか上の空の表情のままだ。

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