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(19)他人の名を挙げ「犯人だ」

検察官「あなたはいろいろ心が揺れながら、結局は豪憲君の遺族が望む極刑を受けて命で償う、と言った。いつからそうなった?」

鈴香被告「裁判が始まってから」

検察官「裁判が始まってからというと、1回目の裁判が始まるとき? それまではそうは思わなかった?」

鈴香被告「はい」

検察官「それまでは?」

鈴香被告「生きて償おうと」

検察官「どういう形で? ずっと刑務所にいるとか色々あるが」

鈴香被告「とりあえず決められた刑に従い、生きられるなら生き、日々お祈りを続けていこうと」

検察官「少しでも軽い刑がいいとか、早く母親や弟の所に帰りたいとは?」

鈴香被告「もっと前は(そういう気持ちに)なった」

検察官「それはいつ?」

鈴香被告「…答えたくない」

検察官「かなり前か、(裁判の)直前か?」

鈴香被告「直前まで」

検察官「裁判が始まって気持ちが変わった?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたは、平成18年の6月4日に警察に任意同行されて行った。その前から自白したかったが、結局できなかったと言いましたね」

鈴香被告「はい」

検察官「6月4日、いよいよだなと思った?」

鈴香被告「はい」

検察官「その前に自首しようとして心が決まらず、警察がきて話そうとしたのは?」

鈴香被告「怖くて話せなかった。母に知られるのは怖かった」

検察官「この日の任意の調べで、あなたは弁護士に2回接見して会っているが」

鈴香被告「はい」

検察官「そのとき弁護士に豪憲君のことは話した?」

鈴香被告「言えなかった」

検察官「任意調べで、あなたは豪憲君の殺害、死体遺棄を否認した」

鈴香被告「はい」

検察官「そしてこの日の夜、逮捕される前、遺体を捨てたことを認めた」

鈴香被告「はい」

検察官「遺棄だけ認めたのはなぜ?」

鈴香被告「遺体を遺棄したことだけなら母も驚かず、罪が軽くなると考えた」

検察官「最初は豪憲君の殺害については強く否認した?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたは豪憲君殺害を否認するとき、別の人の名を挙げて『犯人だ』と言ったはずだ」

検察官の投げかけた質問に鈴香被告は一瞬、沈黙する。ここから検察官は、語気を強めて追及を始めた。

検察官「これはどういう意味?」

鈴香被告「言いたくない」

検察官「どうして言えないかも含めて、言えないのか?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたが『犯人だ』と出した名前は1人か?」

検察官は腕を組み、鈴香被告を見下ろすような形でにらむ。鈴香被告は前を見つめたまま沈黙を続けた。

鈴香被告「…」

裁判官「答えたくない?」

検察官「名前を出したのが1人か複数かも?」

鈴香被告「言いたくない」

検察官「あなたの父の知人で、彩香ちゃんをかわいがっていた年配の男性の名は?」

鈴香被告「言いたくない」

検察官「否定はしない?」

鈴香被告「…言いたくない」

検察官「なぜあなたは豪憲君を殺したのは自分なのに、ここで出した他人の名前は言わない? つまり、出した他人の名前は犯人と(警察が)思うと感じていたのか?」

鈴香被告「(聞き取れず)、逃げたかったから」

検察官「結局あなたは、6月8日に豪憲君の殺害を認めた」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたが名前を挙げた人のアリバイを、警察が捜査していたのは知っていた?」

鈴香被告「知りません」

検察官「アリバイがあったと言われていない?」

鈴香被告「知りません」

検察官「他の人になすり付けて逃げたいのを、殺害したと認めたのはどうして?」

鈴香被告「○○検事(実名)に怒鳴られたから」

検察官「反省したのではなく、怒鳴られたから?」

鈴香被告「反省もしていた」

検察官「あなたが豪憲君を殺したのを認めたのは、○○検事に怒鳴られたからか?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「でも今、怒鳴られたからと言った」

鈴香被告「…」

検察官「最初、自白したのは、警察は検察か覚えているか?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「○○検事が怒鳴ったこと以外、どんな理由があるのか?」

鈴香被告「…」

検察官「答えたくないのか、答えられないのか」

鈴香被告「覚えていないものは、覚えていない」

検察官「豪憲君を殺したことを否定し、他の人に罪をなすりつけ、それで自分がやったと心境が変化したのは、どうしてだ? ○○検事が怒鳴ったこと以外に、何かあったのか?」

鈴香被告「…」

裁判官「どうですか? 調書ではあなたは先に検事に認めたことになっているが」

鈴香被告「そうですか? 思い出せない」

検察官「こちらは『罪を免れようとしたが、怒鳴られて認めたのか?』と(聞いている)」

鈴香被告「(聞き取れず)…に悪いなという気持ちになった。なぜ名前を言ったかはいえない。豪憲君にも申し訳ない。本当のことを話し、成仏させてあげないと、と」

検察官「罪を人になすりつけ、豪憲君に悪い? 本当か? ○○検事に怒鳴られたと言った。話が違う」

鈴香被告「…」

検察官「答えられないなら、次にいく。あなたが名前を挙げて罪をなすりつけようとした人はアリバイがあり、豪憲君を殺すのは不可能と、調べの時に言われた?」

鈴香被告「後になって○○検事に言われた」

検察官「その前は?」

鈴香被告「記憶がない」

検察官「あなたの言い分は…」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「どうして『死体を捨てた』としゃべったのか?」

鈴香被告「…」

裁判官「答えられない?」

鈴香被告「はい」

検察官「『家に帰ったら遺体があった』と言わなかった?」

鈴香被告「…」

裁判官「どうですか?」

鈴香被告「はい」

検察官「○○検事に死体遺棄の弁解録取をされたとき、逮捕事実は豪憲君を捨てたことだった。それを読み聞かされて何と言った?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「家に鍵がかかっていて鍵を外して入ったら、靴があったと言ってない?」

鈴香被告「思い出した」

検察官「豪憲君はどこにいたと言った?」

鈴香被告「出入り口付近」

検察官「最初は彩香の部屋と言ってないか?」

鈴香被告「そうかもしれない」

⇒(20)「自供経緯」「取り調べ実態」−検察、矢のごとくの“反攻”