Free Space

(5)「死刑に」ひときわ大きな声にも無表情

検察側の論告求刑が続く。豪憲君殺害事件の経過を示しながら、鈴香被告に情状酌量の余地がないことを訴える。

検察官「自己が彩香ちゃんを殺害したとのうわさが流れていることを聞かされ、別の子供を被害者にする事件を引き起こせば、彩香ちゃん殺害の疑いをほかにそらすことができると考えた」

「1人で帰宅する途中だった豪憲君を被害者として選び、彩香ちゃんの思い出の品をもらってほしいという甘言で自宅に誘い入れ、腰ひもを背後から無抵抗の豪憲君の首にまきつけた」

「豪憲君が土間に崩れ落ちるようにして倒れ、口から『ゲホッ』という音がしても止めることなく…」

豪憲君の無残な最期を読み上げる検察側。傍聴席に座る豪憲君の両親は厳しい視線を鈴香被告の横顔に注ぐ。

検察側は豪憲君の遺族が厳しい処罰感情を訴えていることにも言及。次のような両親の言葉を引用した。

「遺体の顔はどす黒く、体は虫に食われていた。声を上げながら泣き、顔をなでた。豪憲との楽しい思い出を思い出そうとしたら、遺体と対面したときの無残な姿がフラッシュバックのように頭に浮かぶ。被告はその場しのぎの供述をしている。あれだけの凶行で豪憲を殺害した被告が、のうのうと生きていける世の中ではあってはならない」(父親)

「私が代わってあげたかった。毎日、豪憲の写真に向かって何度も話しかけているが、その成長していく姿をみることができない。切なさ、悲しさで頭がいっぱいになり、心の中に大きな穴があいているような感じだ。被告の処罰は死刑しか考えられない」(母親)

すすり泣く豪憲君の母親。検察側は続いて、鈴香被告が彩香ちゃん殺害事件について殺意を認めたり、過失を主張したりと供述が変遷していることなどを指摘した上で、鈴香被告を厳しく指弾した。

検察官「最後まで自己保身をしていた。実に見苦しい。取り調べの際に『祭りがみたい』『チョコレートが食べたい』と駄々をこねたりした。捜査段階の態度をみても、真摯(しんし)に事件と向き合っていない。現時点までを通じて、真摯な反省がみられない。犯行は被告の異常ともいえる反社会的な人格性向に根ざしており、今後とも真摯な反省、矯正教育に矯正も期待できない」

死刑求刑を予感させる検察側の厳しい言葉。静まりかえる法廷の中で、検察側は地域住民の処罰感情が強いことを述べていった。

検察官「小学生2人が相次ぎ殺害された犯行が地域社会に与えた恐怖感・不安感はきわめて大きく、近隣住民の多くがカウンセリングを受けるなどし、PTSDの症状で治療を必要としている人は少なくない。被害者と遊び友達だった子供たちは事件後は1人で眠ることや、トイレや風呂に行くこともできない。被告が住んでいた団地では、子供を1人では遊ばせられない状態が今も続いている」

「子供を含めた近隣住民の多くが被告の極刑を望んでいる」

検察側は求刑について述べはじめ、冒頭、永山事件の最高裁判決を示しながら、鈴香被告の死刑求刑をほのめかす。

検察官「前科がないこと、豪憲君の公訴事実について認めていることなど、被告にとって有利な事情を考慮しても、罪責は重大で、罪刑均衡の見地からも、一般予防の見地からも極刑がやむを得ない場合に該当する」

無表情を貫く鈴香被告からは、その内面はうかがい知れない。

検察官「いたいけな幼児2人を殺害し、その貴い命を奪った犯行は悪質で、その結果も重大である」

「被告は、卑劣な隠蔽(いんぺい)工作を繰り返し、いまだに何らの反省も見られないなど、犯行後の情状も良くない」

検察側は犯行の残虐性、冷酷性を批判し、情状酌量が認められないとする主張を再び展開した後、鈴香被告に向けて最後の一言を放った。

検察官「被告に死刑を選択しない事由として十分な理由を認めることができず、極刑をもって臨む以外にない」

検察側は「死刑」のところで声をひときわ大きくした。傍聴席から立ち上がり、外に飛び出す報道関係者たち。

鈴香被告は論告求刑を読み上げている検察官の顔から視線を外さず、無表情のまま瞬きを繰り返した。傍聴席にいた鈴香被告の弟はうつむき、母親は呆然(ぼうぜん)とした様子でハンカチを握りしめた。

検察側の論告求刑は終了。午後1時半から弁護側の最終弁論が始まる。

⇒(6)弁護側の最終弁論始まる「イタコはプレッシャー」